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ジークの雑録日誌

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ジョン・ヒックスの業績と一生

 ジョン・ヒックスは、イギリスで最も優れた経済学者である。彼はイギリスの中にあってケンブリッジ学派の思想的影響を受けなかったにもかかわらず、結果としてケンブリッジ学派とローザンヌ学派の理論統合を成し遂げた人物である。

   彼の経歴は、稀有なものだ。オックスフォード大学を卒業し、LSEで講師を務めつつライオネル・ロビンズのもとでローザンヌ学派オーストリア学派の流れを汲む「大陸ヨーロッパ学派」の理論を学ぶ。当時のLSEケンブリッジ学派(マーシャル)の影響を全く受けておらず、ローザンヌ学派が提唱する「経済理論の数学的定式化」に邁進していた。ヒックスもその影響を大いに受けていたとされる。

 彼の1つ目の業績は、ケインズの一般理論の数学的定式化である。これは今日の学部マクロの基礎であるIS-LM理論にあたる。このモデルが静学的であったためにヒックスは批判の対象になる。ヒックス自身もそのことは認めている。私の意見としては静学的モデルだとしても、ケインズの一般理論の数学的定式化を成し遂げたヒックスの功績は素晴らしいものだと主張する。

 2つ目の業績は、1939年に発表した著書『価値と資本』("Value and Capital")の中で、無差別曲線の理論やこれを用いた効用最大化の理論、一般均衡の静学的安定性の条件、予想の弾力性概念による一般均衡理論の現代化と、補償変分、等価変分などの消費者余剰の概念の明確化による新厚生経済学の確立に尽力したことである。これらは、序数的効用に基づくミクロ経済学の基礎と分析方法を確立し、大陸ヨーロッパ学派が主張する理論の根拠を与えるものになった。このことがケンブリッジ学派と大陸ヨーロッパ学派の理論統合がなされる。ヒックスは、この一連の業績によりノーベル経済学賞を受賞する。一連の業績での受賞に関してヒックス自身は残念がっていたと伝えられている。(本人は経済史における業績での受賞を望んでいた。)

 3つ目の業績は、オーストリア派経済学に目を向けて、1973年の著書『資本と時間』でオーストリア学派の資本理論再興を一人で試みたことである。固定資本と循環資本の両方を持つ、オーストリア学派的な資本理論を定式化しようとする試みだ。この試みは経済動学の基礎となっている。

 晩年のヒックスは経済動学と経済史の研究にのみ心血を注ぎ、その生涯を終えた。ミクロ経済学マクロ経済学の両方で多大な功績を遺した彼は、まさしく「英国最後の大経済学者」と呼ぶにふさわしい。